駅にまつわる“現在、過去、未来”のお宝トピックを発掘!

駅宝サーチ
神戸駅編

西の拠点駅とともに幾星霜。地元で長い歴史を重ねてきた老舗が語る、まちや駅のこれまでとこれから。

亀井堂総本店

神戸駅の北東そばに鎮座するD51を眺め、歩道に沿って北東方向へ。兵庫縣里程元標が立つ交差点から元町商店街のアーケードに入って少し歩けば、焼き菓子の甘い香りに鼻をくすぐられる。香りの元は、亀井堂総本店。1873(明治6)年の創業から151年の歴史を重ねる、銘菓「瓦せんべい」の元祖だ。初代創業者は、大阪・河内出身の松井佐助氏。神戸の煎餅屋で修業していた佐助氏は、神戸開港に伴い時代が変化する中で新しい菓子づくりに開眼。すでにあった南蛮舶来のカステラと同じく卵、小麦粉、砂糖を使い、今までにない和魂洋才の菓子を作り上げた。

洋菓子の要素を取り入れつつも、バターや油脂を使わないため味は素朴で優しく日本人好み。瓦をモチーフにした高級感ある形状や、湊川神社の御祭神である楠公さんこと楠木正成公の焼き印なども好評を博し、神戸の新しい名物として広まっていった。

その後、昭和20年代には焼き印が新たな需要を発掘。企業や商品などの名前が入った、ノベルティ用のオリジナル瓦せんべいが大ブームとなる。また近年では、伝統を大切に守りながら時代に調和させた菓子作りも。老舗発の新しい神戸銘菓として、若い世代からも高い人気を集めている。

創業以来151年間にわたって神戸銘菓でありつづけるロングセラー、瓦せんべい。素朴で優しい味わいの中に、ほんのりした甘さが生きている。8枚入り605円(税込)~。

職人が一枚ずつ手作業で施す焼き印の技術を活かした、オリジナル瓦せんべい。焼き印は、既成から個別オーダーによる新規制作、両方の組み合わせまで幅広く対応。墨字でPRの文言が記された昔の木札が、老舗の歴史を物語る。

「時代によって異なるお菓子の存在意義や役割を追求し続けたい」という、五代目店主の松井隆昌さんが手がけた新銘菓『 TONOWAバターサンド 』。フレーバーは、オリーブ、淡路島なるとオレンジ、神戸いちじく、瀬戸内レモン等全8種。6本入り1,944円(税込)~。

看板の瓦せんべいをはじめ、多種多様な菓子が並ぶ店内。土産やギフト用と併せて、自宅用に買い求めて帰る人も多い。写真左奥では、職人による瓦せんべい手焼きの実演も。

店舗情報

亀井堂総本店
078-351-0001
神戸市中央区元町通6-3-17
10:00~19:00
無休

「神戸」の名を冠した駅名にもクラシカルな駅舎にも、独特の風格と存在感を感じる特別な存在です。

株式会社亀井堂総本店
社主 松井佐一郎さん

私ども亀井堂総本店は、おかげさまで創業151年。つまり、神戸駅より1年先輩ということになります(笑)。実は、鉄道や駅にまつわるエピソードも幾つかあるんですよ。

瓦せんべいが広く世に出るきっかけとなったのは、神戸~新橋間の東海道線が開通した翌年の1890(明治23)年、東京・上野公園で開かれた第三回内国勧業博覧会への出展でした。現地へ道具を持ち込んで焼いていたものの全く追いつかず、瓦せんべいを神戸駅から鉄道に乗せて東京まで運んだと聞いています。物流が発達した今では想像もできないことですが、当時はそれが最速で物を届ける手段だったんですね。

また、昔はさまざまな場所へ商品を届ける際に鉄道貨物便をよく利用しましたね。ただ、せんべいの箱は軽いので、荷役の方の扱いによっては箱を開けたらバラバラに割れていたということも(笑)。今となっては、懐かしい思い出です。

創業以来ほぼ変わらずこの地で店を構えてきたこともあり、神戸駅は身近であり特別な存在でもあります。「神戸」の名を冠した駅名には、やはり独特の風格を感じますね。駅舎のクラシカルな雰囲気も大好きなので、ぜひ変えずに残していただきたいです(笑)。

今後は、面的な広がりのあるウォーカブルなまちの中心となっていって欲しいと思っています。

松尾稲荷神社

鉄道黎明期に神戸駅があったハーバーランドから西へ。海側一帯に川崎重工の工場群を望む兵庫区東出町の一角に、小さくも立派な神社が鎮座している。この地で700年以上の歴史を有し、商売繁盛や縁結びのご利益で知られる『松尾稲荷神社』だ。境内に奉納された無数の玉垣や提灯が、地域の人々から篤い崇敬を集めていることを無言のうちに物語っている。

お宮の場所は、かつて旧湊川の堤防上だった。南北朝時代の湊川合戦に際し、楠木正成公が堤に立っていた松の大樹を目印に一族郎党を招集。一同が身につけていた神仏の護符を、松の木の根元に祀られていた稲荷の祠へ納めて出陣したといわれている。鉄道が敷かれ神戸駅が誕生する遥か昔から、まちや人を見守り続けてきたのだ。

明治、大正期の写真や絵葉書。明治40年頃に撮影された右上の写真には、大正3年に伐採される前の松の大樹が写っており、人と比較すると如何に大きかったかが分かる。

覆殿内の天井に多数の奉納提灯が吊られていることから、「提灯持ちのお稲荷さん」とも呼ばれるようになった。毎年新調交換され、赤と白が入れ替えられる。

拝殿奥から見た本殿裏側。本殿、拝殿とも総檜造りで大正3年の建て替え当時は白木だった。黒檀のように黒光りしているのは、神社では珍しい線香を焚き上げる習慣による。

お社の最奥部に鎮座するビリケン像。大正時代末期に奉納されて以来、お宮の福の神「松福様」として篤い信仰を集める。公共の場に安置されているビリケンでは国内最古。

施設情報

松尾稲荷神社
078-671-6444
神戸市兵庫区東出町3-21-3
7:00~17:00
無休

在るべき姿の本質を見つめなおすと、愛着が生まれ明るい未来が見えることもある。

松尾稲荷神社
宮司 長山竹之さん

私が子どもの頃、神社のすぐ東側には大正時代から栄えた稲荷市場があり、神戸随一といわれるほど賑わっていました。今は市場もアーケードもなくなりましたが、昔ながらの下町情緒が色濃く残っています。

一時は、人口流出や高齢化で寂しいまちになってしまったこともありました。でも、最近では新しい住宅が次々に建てられ、若い世代の人たちも増えて活気を取り戻してきています。ビリケンさんを訪ねてお参りに来て下さる方も、随分と多くなりました。

信仰の場としてあった神社の意義が時代とともに変わってきている今、改めて神社として在るべき姿を見つめなおしているところです。まちも駅も、時代の波に乗るだけではなく、一度立ち止まって本質を見つめてみるのも良いのではないでしょうか。それで、愛着が生まれたり明るい未来が見えてきたりすることもあると思うんです。

お好み焼 ひかり

松尾稲荷神社のすぐそば、かつてあった稲荷市場の南端で数軒のお店が今なお営業を続けている。そのうちの一軒が、ダイエー創業者・中内㓛氏や野球界のレジェンド的存在・イチロー氏も通った名店、『お好み焼 ひかり』だ。創業は、戦後間もない昭和20年。以来、三代にわたって80年近く歴史を重ねてきた。

現在の主は、初代創業者である小林あや子さんの孫、曾我部周子さん。常連客から「ちかちゃん」の相性で呼び親しまれる、名店の看板娘だ。カウンターを埋める客からの注文を、手練れのテコづかいでよどみなく捌く姿は名人の域。もちろん、動かすのは手だけではなく口も。カウンター鉄板越しの客と差し向かいで繰り広げられる、絶妙な距離感と間合いの掛け合いは、神戸下町の無形文化遺産といっても過言ではないだろう。

何を食べても間違いなく旨いが、お好み焼を海苔で巻いた名物『のり巻き焼』はマスト。見た目のインパクトだけでなく味も香りも抜群で、箸を休める暇がない。

初代が考案した70余年来の名物、のり巻き焼(写真は玉子入り750円)。ふわふわのお好み焼に、鉄板で焼けた海苔の芳ばしい香りと風味が抜群に合う。どろソースをかけても美味。

“ちかちゃん”おすすめ、ちゃんぽんそば1,300円。豚、イカ、タコ、貝柱の贅沢具材で、味もボリュームも満点。同じ兵庫区の製麺所から仕入れるたまご麺がまた旨い。

平日の昼下がりでもこの賑わい。それぞれが好きなものを注文し好きなように食べながら、店主や隣客と快活なコミュニケーションを繰り広げる。これぞ正しき街のお好み焼屋の風景だ。

稲荷市場の賑わいも今は昔。神戸随一と謳われた往時を偲ぶ面影こそ残ってないが、老舗名店の歩みはまだまだ現在進行形で継続中だ。わざわざ訪ねてみる価値は十二分にある。

店舗情報

お好み焼 ひかり
078-671-4016
神戸市兵庫区東出町3-21-2
10:30~20:00(19:30LO)
水・木曜休

駅前から少し離れて歩いた先に、新しい発見や出会いが待ってます。

お好み焼 ひかり
三代目店主 曾我部周子さん

のり巻き焼は、祖母が昭和25年頃に出し始めたと聞いています。ただ、なぜ海苔でお好み焼を巻いたのか、はっきりした理由までは私も知らないんですよ(笑)。昔この辺りは港町で海産物を扱う市場もあって、近所の人やお客さんから海苔をもらうことも多かったみたい。だから使ってみようとおもったんじゃないのかな(笑)。

そんな祖母も、数年前に亡くなりました。いなくなってから、存在の大きさや、お客さんから如何に愛されていたかを改めて実感。時代の波や震災にも負けずに続いてきた店を、私も頑張って守っていきたいと思っています。

色々なメディアで取り上げていただいて、地元だけではなく遠方からわざわざ訪ねて来て下さる方も増えました。神戸駅からハーバーランドを通って歩いて来られる、その道中も楽しんでいらっしゃるようです。駅前をちょっと離れて歩いてみると、新しい発見や出会いがある。そういったことを上手く発信しながら、神戸駅が発見や出会いへ玄関口となってくれればいいなと思っています。

高田屋京店

神戸駅の南西約600mに広がる新開地エリア。1905(明治38)年、旧湊川の埋め立てによって“新しく開かれた地”だ。自然発生的に生まれた街は、劇場や映画館など多くの娯楽施設が建ち並ぶ歓楽街となり「東の浅草、西の新開地」と称された。

そんな地の一角に、昼夜問わず客の出入りが引きも切らない居酒屋がある。四代にわたり90年以上の歴史を重ねる、『高田屋京店』。新開地でも指折りの名酒場として、幅広い層から愛されてきた。

数あるメニューの中でも、この店の代名詞ともいえる名物が、おでん。カウンターに囲まれた調理場には巨大なおでん鍋が鎮座し、なみなみと張られた出汁の中で多彩なタネがいい塩梅に色づいている。タネは定番から創作系まで常時20種以上、値段は1つ110円~とくれば、ファンにならない理由が見当たらない。

さらに特筆すべきは、三代目女将の籠谷祐子さん、四代目を継承した息子の鈴木拓矢さんをはじめ、スタッフ陣の見事な仕事ぶり。調理、接客、配膳など、それぞれが持ち場を全うしながら、常に居心地のいい空間を作り上げてくれているように感じるのだ。

いい酒、いい人、いい肴。三拍子そろった老舗名酒場の扉は、今日も万人に開かれている。

店内の壁に飾られた、創業当時の写真。看板には「開店大売出し」「景品もれなく呈上」の文字、右手の入口には連なって入って行く客の姿が見える。

手前:大根110円、すじ、ロールキャベツ各300円。大根やすじには白味噌、ロールキャベツにはケチャップベースの自家製ソースで食べる。
奥:おでんの出汁と中華麺を合わせた女将考案の創作メニュー、おでんそば200円~。好みのタネを自由にトッピングできる。

カウンター越しの調理場に鎮座するおでん鍋は、店のシンボル的存在。赤銅製の巨大な鍋は、現在で四代目。立ち上る湯気とともに、創業以来受け継がれ続ける出汁の香りが広がる。

味だけではなく、スタッフつまり人の良さも大きな魅力。過剰なサービスではなく、心のこもったホスピタリティで迎え入れてくれる。もちろん、一見さんでもウエルカムだ。

店舗情報

高田屋京店
078-575-6654
神戸市兵庫区湊町4-2-13
11:00~21:30(21:00LO)
日曜・祝日休

新開地と神戸駅周辺を回遊するような街遊びができたら面白そう。

高田屋京店
三代目女将 籠谷祐子さん
(写真右。左は先代で母の鈴木寛子さん)

1931(昭和6)年、祖父が神戸駅北側の北長狭通8丁目で創業し、1960(昭和35)年にこの場所へ移転してきました。90年もの長い間やってこられたのは、いいお客様に恵まれたおかげ。そして、そのお客様に喜んでいただけるよう、祖父母と父母が真摯に仕事をしてきたからでしょう。そんな店の伝統を、女将として四代目の息子へと繋いでいるところです。

店の伝統といっても色々な要素がありますが、やっぱり大切なのは味。おでんの出汁は閉店後に濾して冷まし、冷蔵庫で寝かせます。新たに加える出汁も、創業以来変わらず鰹と塩と砂糖のみです。その丁寧な仕事の繰り返しで、店の味は受け継がれてきました。

また、伝統を守りつつ、時代の流れやお客様の声に合わせた新メニューの考案など、ブラッシュアップも図っています。伝統を振りかざして押し付けるようなことだけは、絶対にしたくないですから。

最近は、若い世代のグループや女性のおひとり様も増えてきています。店だけでなく新開地の街も、そんな傾向がありますね。かつての“おっちゃんの街”のイメージから、随分と変わってきた感じです(笑)。

こうした動きがより一層広まれば、人の流れも変わるはず。神戸駅も近いので、この辺り一帯を回遊するような街遊びができれば面白いかもしれません。