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西宮駅編

西宮の水、略して「宮水」。灘の酒に欠かせない奇跡の名水とは。

阪神間に鉄道が敷かれる遥か以前より、西宮から神戸にかけての灘と呼ばれる海岸地帯で発展した酒造り。灘の酒として広く知れわたった銘酒は、六甲山地の伏流水が湧き出す井戸水「宮水」によってもたらされた。西宮に湧く水、略して宮水。これなくして、灘の酒は語れない。

日本屈指の酒処、灘五郷

古来の白く濁った「濁り酒」ではなく、透き通った「澄み酒」を生み出したことから、清酒発祥の地とも言われる伊丹。江戸時代には天皇の居所だった上方から江戸へ下る「下り酒」の名産地として広く名を馳せた。

そんな伊丹から清酒造りの技を取り入れ、江戸時代中期以降に「下り酒」の産地として台頭したのが灘五郷。大阪湾沿岸の東西約12㎞にわたる、日本最大規模の清酒酒造地帯だ。日本酒の生産量は国内最多で、全国シェアの約1/4を占める。

西宮市の今津郷・西宮郷から、神戸市東灘区の魚崎郷・御影郷、神戸市灘区の西郷まで、5つの郷に25の酒蔵が点在。なかでも、今津郷と西宮郷で12の酒蔵を擁する西宮は、灘五郷きっての酒処だ。

大正時代の灘五郷略図。右下には、西宮市内の宮水井戸の場所も記されている。「灘五郷酒造一班(大正8年)」国立国会図書館デジタルコレクション
大正時代の灘五郷略図。右下には、西宮市内の宮水井戸の場所も記されている。
「灘五郷酒造一班(大正8年)」国立国会図書館デジタルコレクション

灘の酒を育む多彩な恵み

灘五郷で醸される清酒は端麗な飲み口が特徴で、「灘の生一本」「灘の男酒」と称される。そんな銘酒を生み出しているのが、この土地ならではの多彩な恵みだ。

原料となる米は、「酒米の王者」として名高い山田錦。とりわけ兵庫県産の山田錦は質量ともに優れ、王者の中の王者とされる。その生産地に近い灘五郷では、古くから酒造りの素材として使い続けてきた。

江戸時代より「山田錦」の生産地として有名な兵庫県美嚢郡奥吉川村市野瀬地域(現三木市吉川町)での、昭和30年頃の酒米出荷のワンシーン。
江戸時代より「山田錦」の生産地として有名な兵庫県美嚢郡奥吉川村市野瀬地域(現三木市吉川町)での、昭和30年頃の酒米出荷のワンシーン。
写真提供:にしのみやオープンデータサイト

また、日本三大杜氏の一つに数えられる「丹波杜氏」の技も、欠かせない要素。厳寒期に仕込む寒造り、発酵を促す三段仕込みなど、改良を重ねながら磨き上げた技で、灘の酒造りを発展させた。

そして、灘の酒を灘の酒たらしめる大切な要素が、「宮水」とよばれる地下水だ。「宮水」なくして、灘の酒は醸せないのである。

西宮のごく一部で湧き出る奇跡のブレンド地下水「宮水」

「宮水」とは、西宮市の海岸から1㎞ほど山側に位置する西宮郷の一角、約500m四方のごく限られた地域の浅井戸から湧き出る地下水。江戸時代後期の天保年間、魚崎郷の老舗酒蔵「櫻政宗」の六代目当主、山邑太左衛門によって発見されたと伝わる。当時は西宮と魚崎に蔵を構えていたが、西宮で醸した方が良質な酒が出来た。そこで、西宮の水を魚崎へ運んで酒を醸してみたところ、西宮と同様の良質な酒になったことから、酒造りにおける「宮水」の優位性が発見されたという。

その「宮水」の成分は、リンやカルシウム、カリウムなどのミネラルを多く含んだ中硬水。この成分が麹菌や酵母の栄養分となって、発酵を促進させる。また、酒造りの大敵である鉄分が極めて少ないため、色や風味が損なわれないというメリットもある。

酒の仕込みに使われる水が軟水の酒はまろやかで優しい味わいになるのに対し、「宮水」のような硬水の酒はキレのあるしっかりした味わいが特徴。「灘の男酒」と称されるのも頷ける。

こうした「宮水」の特徴的な成分は、六甲山地を源とする3つの伏流水が合わさって出来ているという。それぞれに含有成分が異なる伏流水の奇跡的なブレンドによって、他にはない唯一無二の名水となり、灘の酒を生み出しているのだ。

西宮市久保町にある「宮水発祥之地」の碑。
西宮市久保町にある「宮水発祥之地」の碑。
今も西宮市内には、酒蔵各社が宮水を汲むための井戸が点在している。
今も西宮市内には、酒蔵各社が宮水を汲むための井戸が点在している。

西宮のお宝「宮水」を守り継いでいくために

西宮市産業文化局 産業部 商工課(都市ブランド発信担当)
主査 宮西賢司さん

発見から180余年、「宮水」は灘の酒を特徴づける奇跡の名水として、西宮のまちを潤してきました。酒造家たちは、その恩恵を受けて優れた酒を醸し、日本一と謳われるまでの酒造文化を醸成。同時に、「宮水」を守るためのさまざまな取り組みを通じて、地域への貢献も果たしてきました。

西宮市が西宮町だった大正時代、「宮水」は地域住民の生活用水としても使われていました。仕込み時期には大量の水が必要で生活用水との共用には限界があるため、酒造家たちは多額の寄付を行って全町に上水道を整備。地域貢献という形で枯渇問題を解消するとともに、宮水保護調査会を設立して「宮水」の保全に取り組んだのです。

戦後の高度経済成長に差し掛かる頃には、宮水保護調査会を再編する形で西宮市長を会長とした宮水保存調査会を結成。その後の石油コンビナート誘致においては、反対運動の中核として市民と一体で活動を行い、「宮水」は危機から守られました。

また、西宮市では2017(平成29)年に「西宮市宮水保全条例」を交付。「宮水」に影響を及ぼす可能性のある開発事業について、事前に必要な手続きなどを定め、官民一体での「宮水」保全に取り組んでいます。

自然由来の地下水は環境変化の影響を受けやすく、一度影響を受けてしまうと人間の力は及びません。3つの伏流水の絶妙なバランスで成り立っている「宮水」では、なおさらのことです。先人たちが守り受け継いできた、西宮のお宝。この先も末永く守っていくために、酒蔵イベントなどを通じて一人でも多くの方に「宮水」のことを知っていただきたいと思っています。